乳腺外来

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医師紹介

北村 薫(きたむら かおる) 部長

乳がんの検診、診断から治療全般はもちろん、がん治療の後遺症である腕のリンパ浮腫(※婦人科がんや前立腺がんの治療後には脚にリンパ浮腫が生じることがあります)についても予防から治療までトータルケアを行います。
症例経験の豊富な内視鏡手術、乳房再建、性同一性障害に対する診療に加え、陥没乳頭の悩みなど、バストのことならなんでもお気軽にご相談ください。

出身地 東京都
略歴
1987年
佐賀医科大学卒業
1992年
Hahnemann医科大学(フィラデルフィア)留学
2000年
九州大学第二外科(当時) 講師
2003年
九州中央病院 乳腺外科部長(新設)
2007年
同 副院長
2008年
一般社団法人リンパ浮腫指導技能者養成協会 理事長
2010年
ナグモクリニック福岡院長
2016年
4月1日より現職
所属学会 日本乳癌学会 評議員(〜2017年)
日本内視鏡外科学会 評議員
日本リンパ学会 常任理事
日本リンパ浮腫学会 副理事長
アメリカ外科学会 正会員(FACS)、アメリカ内視鏡外科学会 正会員
受賞
2001年
アメリカ内視鏡外科学会 Best Award
2004年
日本内視鏡学会 会長賞(カールストルツ賞)
編著 リンパ浮腫全書(へるす出版)
リンパ浮腫診療ガイドライン(金原出版)
分著 乳癌診療ガイドライン(金原出版) 
鏡視下乳腺手術の実際(金原出版) 
患者さんのための乳がん診療ガイドライン(金原出版)
主著 乳腺外科医、参上!(悠飛社) 
たたかうおっぱい(西田書店) 
臨牀看護連載 乳腺外科医のひとりごと(へるす出版~2014年)
乳腺外科医のひとりごと(大道学館)※当院売店にて販売中

乳がん検診を受けましょう

日本人女性の12人に1人が乳がんになると言われており、現在女性のがんの第1位で、年間89,000人が新たに乳がんの診断を受け、14,000人が乳がんのために命を落としています。乳がんは30代後半から急増し、40代後半にピークがあって70代を過ぎてもさほど減少しません。しかし、0期で発見された乳がんの治療成績は10年生存率がほぼ100%で、これを見ても早期発見が重要であることが明らかです。

そして、早期発見にはマンモグラフィ検査がとても有用です。欧米など先進諸国ではマンモグラフィによる乳がん検診の受診率が約60~80%にものぼりますが、日本の平均はまだ20%にも届きません(平成25年)。閉経前で乳腺密度が濃い場合には超音波検査が効果的な場合も多く、2つの検査を組み合わせると、互いの弱点を補うことができます。

乳がん検査方法

乳房にしこりや痛みがあるからといって必ずしも乳がんとは限りませんが、検診で要精密検査になったり、自分でしこりや異常を感じているならば次の検診まで待たずに専門医を受診すべきです。
しこりや異常な石灰化がある場合には、生検検査といって組織の一部を切り取って癌細胞の有無を確かめます。組織検査で乳がんと診断されたら、乳房内での広がりによって術式を決定するための判断材料として、MRI検査を行ったり、リンパ節転移や遠隔転移がないことを確認するためにCT検査を行います。

マンモグラフィの被ばく量

日本人が一年に自然に被ばくする放射線量は1.5mSV(ミリシーベルト)、ちなみに世界の平均は2.4mSVでブラジルのある地域では10mSVといわれています。これに対して、マンモグラフィを年に一度受けた時の被ばく量はわずか0.1mSVと、東京―ニューヨークを飛行機で往復(0.19mSV)するよりも少ないのです。「放射線」という言葉に敏感になりすぎず、正しく理解して必要な検診を定期的に受けましょう。

豊胸術後の乳がん検診

豊胸術でシリコンインプラントが入っている方は、乳がん検診を敬遠しがちですが、インプラントのチェックをするためにも、乳がん検診は必要です。なぜなら、豊胸術に用いたインプラントは、時間の経過とともに劣化して破損することがあります。インプラントが破損して内容物が被膜ポケット内に流れ出たまま長期間放置しておくと、次第に身体の組織のなかに浸み込んでしまい、重大な健康被害を招くことがあるからです。インプラントが入っているのは、通常大胸筋の下なので、豊胸術後でもインプラントに負担をかけることなく、安全にマンモグラフィ撮影を行えます。エコー検査で、乳腺とインプラントの両方を丁寧に観察しているので、インプラントに破損があれば簡単にわかります。

乳がん治療方法

術前の検査が一通り済んだら、通常は手術を行います。
手術は大きく乳房切除と乳房温存術(乳腺部分切除)に分けられ、後者の場合は原則として残った乳腺に25~30回(5~6週間)放射線治療を行います。乳房切除には従来の術式に加えて、乳房再建まで考慮した皮下乳腺全摘術もあり、自分の病気にはどんな術式が最適か、それぞれの術式にはどんな利点や欠点、リスクがあるかをしっかり理解したうえで手術に臨みます。
術後は癌の性質に合わせた薬物治療(ホルモン療法や化学療法:抗がん剤や分子標的薬)を行います。ある程度以上進行している場合や癌の悪性度が高い場合には、手術の前に化学療法を行い、効果を確認してから切除することもあります。

乳房温存(乳腺部分切除)術

腫瘍径が小さくて周囲への広がりもない限局性の早期乳がんであれば、乳房を全部切取る必要もありません。具体的にはしこりの周りに乳腺を1-2cmつけてくり抜く乳腺部分を切除し、術後に放射線治療を行うもので、乳房温存術と呼ばれます。わが国の乳房温存率は平均50~60%程度です(施設によってかなり差があります)。温存術には基本的に放射線治療もセットになっています。残った乳腺に放射線を当てて局所再発を防ぐためで、これによって局所再発率は約3分の1に減らすことができます。ただし、がんの範囲やできた場所によっては、乳房を「温存」したからといって術後の整容性が十分に保てないこともあり(へこみやひきつれ等、変形することがあります)、「温存術」に固執すしたばかりに、術後乳房の形に悩まされる結果となることもあり得ますので、注意が必要です。

乳房切除術と皮下乳腺全摘術

病巣の範囲が広くて乳腺部分切除が適さない(変形が明らかな)場合には、乳腺組織をすべて切除することになります。通常の乳房切除術は、乳腺と乳頭・乳輪を含めて皮膚を広く切除しますが、病巣が皮膚や乳頭に達しておらず、乳腺の中にとどまっていれば、必ずしも皮膚や乳頭・乳輪を切除する必要はありません。このように乳輪・乳頭や皮膚を残して乳腺だけを摘出する方法を「皮下乳腺全摘術」といいます。

乳房切除術と皮下乳腺全摘術のイメージ図
乳房切除術と皮下乳腺全摘術のイメージ図

乳房再建術

乳房は外表にあり、女性にとってとても重要な臓器です。がんを治す(根治性)だけでなく術後の見た目(整容性)も配慮した手術が求められ、内臓器のがん治療とは大きく異なります。乳房再建には筋肉など自分の組織の一部をドナーとする方法と、人工インプラントを大胸筋の下に留置する方法があります。筋皮弁を用いた再建はインプラント法に比べて手術侵襲が大きく入院期間も長くなる傾向があり、対応する施設も限られていたので、乳房再建のハードルは概して高かったようです。そんななか、2013年から乳房インプラントを用いた乳房再建が保険収載されたことで、乳房再建はぐっと身近なものになりました。

通常の乳房切除では皮膚も一緒に切除するため、乳房再建するためには組織拡張器とよばれる風船を大胸筋の下に留置して、生食水を注入しながら少しずつ皮膚と筋肉を伸ばしていき、後日インプラントと入れ替える手術を行います。

乳房再建術のイメージ図
乳房再建術のイメージ図1

さらに、医療用色素を用いて乳輪形成術(タトゥー)を行ったあと、乳頭形成術を加えて、乳房再建が完了します。乳頭の再建は皮弁を形成する方法と対側乳頭を移植する方法があります。

一方、前述した皮下乳腺全摘術では皮膚は温存されているので、がんの切除と同時にインプラントを用いた乳房再建を一期的に行うことが可能です。

乳房再建に用いられる組織拡張器(左)と乳房インプラント(右2つ)
乳房再建術のイメージ図2

このような整容性に配慮した術式も、早期発見すればこそ選択肢に入ってきます。乳がんには効果的な予防法はありませんから、定期的に検診を受けて早期発見することが、最大の防御方法です。30歳になったら乳がん検診を受けましょう。

インプラントの入れ替え

万一破損が見つかった場合は、インプラントの入れ替えが必要です。破れていないほうのインプラントも同程度古くなっているので、通常は両側とも抜いて新しいインプラントに入れ替えます。方法は、アンダーバストのしわに沿って4㎝程度の皮膚切開をして、インプラントを取出し、被膜ポケット内にもれたシリコンジェルをすみずみまで回収してから、新しいインプラントを挿入します。傷は最初赤い線になり、そのあと白っぽくなってやがて傷とはわからなくなります(※治り方には個人差があります)。手術中静脈注射などで眠っていますが、終了と同時に目が覚めて術後は特に問題がなければすぐに帰宅できる日帰り手術です。

リンパ節郭清(かくせい)(切除)

乳がん手術の際に切除の対象となるのは、乳がんができた側の脇の下のリンパ節で、からだの外側から順にレベルI,II,IIIに分かれています。以前は乳がんのステージにかかわらず、リンパ節をできるだけ広範囲に切除していましたが、乳がんの転移はまずみはり番のリンパ節(センチネルリンパ節)に転移が起こり、それから次第に深い部位のリンパ節に転移していくことがわかり、現在ではセンチネルリンパ節生検をして転移が陰性だった場合には、リンパ節切除は省略されるようになりました。

センチネルリンパ節生検

通常、センチネルリンパ節生検は術中迅速検査として判定されますが、まれに偽陽性(本当は転移がないのに転移があると判定される)や偽陰性(本当は転移があるのに転移がないと判定される)がみられます。そこで、当院では切除不足や過剰切除を完全に防ぐために、術前検査の一環として、CTリンパ管造影によるセンチネルリンパ節生検を行っています。

CTリンパ管造影によるセンチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節生検のイメージ図

良性腫瘍に対する内視鏡手術

比較的よく見る良性腫瘍には、線維腺腫、乳管内乳頭腫、葉状腫瘍などがあります。若い女性にできる腫瘍はほとんどが良性で、最も頻度が高いのは線維腺腫です。良性ですが時に急速に増大し、10cm以上になることもあります。線維腺腫は、乳がんと違って正常乳腺に浸潤しないので、腫瘍を包んでいる被膜ごと摘出すればまず再発しません。乳房の内側にできたものや、大きく育ったものは乳房皮膚の真上に手術の傷がつくので、整容性を著しく損なう場合があります。内視鏡手術では、腕で隠れる脇から12mmの小切開でアプローチします。

内視鏡下乳腺手術
良性腫瘍に対する内視鏡手術の写真

内視鏡下に腫瘍だけをきれいに剥離して、パウチに回収して体外に出すので術後の傷が乳房上に全くつきません(自費診療で約49万円)。

リンパ浮腫

がん手術でリンパ節を切除すると「リンパ浮腫」という後遺症が発症することがあります。乳がんの場合は、腋のリンパ節郭清でリンパの流れが滞り、皮下組織に高濃度の体液が蓄積して腕が腫れあがります。発症の定義が明確でないため、その頻度は報告者によって非常に幅がありますが、発症後に放置すれば確実に進行するので、腫れに気づいたらすぐに担当医に相談しましょう。日本乳癌学会の班研究で多施設実態調査が行われ、患側の腕が健側より1㎝以上太い場合をリンパ浮腫の発症と定義した場合、発症率は50.9%と判明しました。

2008年度にリンパ浮腫の予防指導や、圧迫治療に用いる「弾性着衣」や「弾性包帯」を用いた医療材料が保険適用となり、2016年度はさらにこれらを用いた複合的治療が保険収載されました。これに伴い、今後は包括的にリンパ浮腫診療が受けられる医療施設が増えていくことが期待されています。

リンパ浮腫の基礎知識

からだの中を循環する液体は血液、リンパ液、脳脊髄液の3種類あり、リンパ液は通常リンパ管を通って、体中をゆっくりめぐっています。しかし、たとえばがん治療のためにがんと一緒に周辺のリンパ節を切除したり、がんができた部位に放射線をあてたりすると、その領域のリンパ管が傷ついてリンパの通り道が渋滞します。すると、流れにくくなったリンパ液は、組織のすきまにしみ出て溜まっていき、やがてその部分は大きく腫れてしまいます。この状態を「リンパ浮腫」と言います。日本国内におけるリンパ浮腫の原因は、がん治療に伴うものが最も多く、乳がんでは手術を受けた側の腕が、婦人科がんや前立腺がんなどでは、骨盤内のリンパ節を左右にわたり広く切除するため、両側の脚に発症する可能性(リスク)があります。その他の原因として、外傷や感染、肥満などによっても発症することがあります。

リンパ浮腫の病期(ステージ)

リンパ浮腫を発症するリスクはあるが発症していない状態を、リンパ浮腫の病期分類では0期(またはステージ0)と言います(表)。I期は発症早期の状況で、腫れたり治ったりしていますので見過ごしてしまうこともあります。この時期を放っておくと、やがて常に腫れた状態となりII期へと進行します。さらに放っておくと、濃い体液にさらされたままの組織が硬く変性していき(線維化)、腫れた部分を押してもへこまなくなります。これはII期晩期と言われ、さらに進行して皮膚病変を伴うとIII期になり、II期晩期以降は難治度が上がって、「重症リンパ浮腫」として集中的な治療が必要となります。

リンパ浮腫の予防と治療

リンパ浮腫対策の理想は「発症させないこと」と「早期に見つけて治療を始めること」です。術前後に受けるリンパ浮腫指導管理=予防指導で習った内容をよく理解し、生活の中にしっかり予防行動を組み込んでいきましょう。最も大事なことは、標準体重を維持することと、リスクのある四肢(爪回りも含みます)をケガ、虫刺され、感染(水虫がとくに注意)から徹底的に守ることです。万一発症しても、I期のうちに発見して治療を始めれば重症化して辛い思いをすることはありませんから、「早期発見」するためにも、入浴時にリスクのある四肢の皮膚状態を確認する、定期的に決まった場所の周径を測るなど日ごろから観察する習慣を身に着けておくことが大切です。

リンパ浮腫治療の第一選択肢は、弾性着衣の装着による圧迫治療です。線維化が進んだリンパ浮腫には、圧迫だけでは組織のすきまにたまった体液をリンパ管に戻すことが難しいので、用手的リンパドレナージという特殊な手技を併用して圧迫治療の効果を増幅します。用手的リンパドレナージは単独では治療効果が得られないので、圧迫治療をベースにした適切な治療を続けましょう。