ジェンダー外来

ジェンダー外来

身体的な性別と、認識している性別は、通常一致しています(性の同一性)が、心と体の性別が一致していない状態を「性同一性障害」と言います。身体的には女性であるにもかかわらず、自分の性別は男性であるという自覚がある方をFemale to Male:FTM(エフ・ティー・エム)、身体的には男性であるにもかかわらず、自分の性別は女性であるという自覚がある方をMale to Female:MTF(エム・ティー・エフ)と言います。性別に対する心身のアイデンティティが一致していないので性同一性障害、英語ではGender Identity Disorderと言われ、その頭文字を取ってGID(ジー・アイ・ディー)、あるいはトランスジェンダーと称されることもあります。

最近よくLGBTという単語を見かけることがありませんか。 これは「性的少数者」といわれるLesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、 Bisexual(バイセクシャル)と Transgender(トランスジェンダー)の頭文字を取ったもので、並べてみるとわかりますが、L、G、Bはいずれも性的な指向に関わる多様性であって、彼らの性の同一性が一致していてもそうでなくても成立するので、トランスジェンダーとは異なるカテゴリーであると言われています。

1.性同一性障害(以下GID)の診断

(1)精神的診断

診断は精神的な側面と身体的な側面の両方から行われる必要があります。 精神科の専門医2名との丁寧な面談を通じて、性別違和の出現時期や程度、具体的な内容、家族構成、恋愛対象、リアルライフエクスピアリアンス(なりたい性別としての実生活を送る)の実現状況など、現在までの詳細な自分史をひも解き、別の精神的な疾患が隠れていないか、身体的な治療が適切なのか、そのペースや時期などを一緒に相談していきます。 さらに、臨床心理士の立会いのもとに心理テストを行います。テストと言っても問題を解くのではなく、木や男性や女性の絵を自由に描いてもらい、その絵を通して臨床心理士が詳しく心理分析を行います。
面談から得た情報と心理テストの分析結果等に基づいて、2名の精神科医が意見書を作成します。

(2)身体的診断

精神的な性同一性とは異なる身体的特徴を備えていることを検証します。すなわち、染色体検査で遺伝学的に正常な46XX型(女性)あるいは46XY型(男性)であり、性別違和が染色体異常によるものでないことを確認します。
また、それぞれの性別に特有な生殖器が正常な状態で存在することを婦人科医や泌尿器科医の診察によって確認します。

(3)治療の整合性

精神的、身体的な診断が終了した時点で、有識者からなる第三者組織に身体治療の適否を判定してもらうために前述の精神科医2名による意見書、身体的診断を行った医師の作成した診断書等を合わせて提出します。
この有識者会議で身体治療が適切であると判定されれば、いよいよ身体治療を開始することができます。
性別を変更するためには2回の判定会議へ申請・承認を得る必要があり、まずはホルモン治療の開始と、FTMの場合は乳房切除の適用についての承認を得ます。ホルモン治療を少なくとも1年以上継続し、身体的な変化が十分に表われた段階で、いよいよ性別適合手術の適否判定を申請します。
これが承認され、性別適合手術を行えば、家庭裁判所に性別変更の手続きを申請し、数週間から数ヶ月後には戸籍の性別、健康保険証の性別が変更されます。

2.身体治療

(1)ホルモン注射

FTMの場合は男性ホルモン(テストステロン製剤)を、MTFの場合は女性ホルモン(エストロゲン:卵胞ホルモン製剤 and/or プロゲステロン:黄体ホルモン製剤)を筋肉注射によって投与します。男性ホルモンは2~3週ごとに投与するものと3~4ヶ月ごとに投与する製品があり、女性ホルモンは1~2週ごとに投与します。錠剤、クリームやシールなどの剤型は吸収が不安定な場合があり、コンプライアンスも不明確なので、医療施設では注射による投与を推奨することが多いようです。

おもなホルモン製剤(商品名)

1)男性ホルモン:エナルモンデポー、テスチノンデポー、ネビドデポーなど
作用 声が低くなる、筋肉や体毛の増加、体重増加、性欲亢進、陰核肥大など、いわゆる男性化が進む一方で、子宮は委縮し、卵巣は多房性嚢胞の形成などにより無機能化していきます。子宮や卵巣の変化は、一度そうなったら男性ホルモンの投与を中断しても元には戻りません。
副作用 ときに顔や躯幹の座瘡(ニキビ)、毛髪が薄くなるなど希望しない変化も表われます。肝機能障害、多血症、血栓症、生殖機能の喪失など
2)女性ホルモン:エストロゲン製剤;ペラニン、プロギノン、プロゲステロン製剤;プロゲストンなど
作用 乳房増大、体毛やヒゲの減少、頭髪増加、筋肉減少、体脂肪分布や肌質の変化などいわゆる女性化が進む一方で、精巣・前立腺は委縮して無機能化します。性腺の変化は、一度そうなったら女性ホルモンの投与を中断しても元には戻りません。
副作用 深部静脈血栓症、肝機能障害、心不全、心筋梗塞、脳梗塞、乳癌、精巣前立腺の委縮、性欲減退、生殖機能の喪失など

いずれの場合も、副作用の有無をチェックし、投与量や投与間隔が適正かどうか、定期的に採血を行い、異常があれば適宜調整していきます。
ホルモン治療は適正な周期を保って継続しないと体調不良の原因になり、ときに重篤な有害事象を招きます。

(2)外科的治療

FTMの場合は乳房切除を行います。乳房切除の方法は、乳房の大きさや下垂の有無、程度によって2通りあり、中程度までの大きさで下垂がないか軽度の場合には乳輪縁切開による皮下乳腺全摘術(Trans-Areolar Total Glandectomy :TATG 、ティー・エイ・ティー・ジー)が可能です。大きくて下垂の強い乳房の場合は、乳腺だけくりぬいても皮膚が大きく余ってしまい術後の整容性が保てないため、乳房皮膚ごと乳腺を切除する乳房切除術を行います。切除術の際には、乳頭を小さくカットして新たに移植しておき、後日その周りに医療用色素を用いてタトゥを施して小さな乳輪を作ります。
MTFの場合は、乳房は女性ホルモン投与によってある程度大きくなるので、必ずしも乳房を増大する手術は必要ありませんが、ホルモンだけでは十分なサイズが得られない場合は乳房インプラントやヒアルロン酸を用いた豊胸術を行います。喉仏の一部を削って目立たなくする手術や声帯を調整して声を高くするための手術を行う場合もあります。

性別適合手術

上記の外科手術が終了し、ホルモン治療を開始して1年以上経過したら、性別適合手術の適否を再申請します。
FTMでは婦人科医が執刀して子宮・両側附属器の切除を行います。同時または二期的に陰茎形成術と尿路変更術を行う場合もあります。
MTFでは泌尿器科医と形成外科医が連携して陰茎・両側精巣切除と尿路変更手術を行います。
当院で対応可能な外科的治療については、お問合せ下さい。

改名の手続き

リアルライフエクスピアリアンス(なりたい性別としての実生活を送る)をよりスムーズに実現するために、なりたい性別に合うよう改名することができます。
氏名変更申立書のほかに、GIDの診断書、戸籍謄本、住民票、改名予定の名前の使用実績に関する資料(名刺、各種会員カード、資格証など)、切手、未成年の場合保護者の同意書などをそろえて家庭裁判所に提出します。後日参与員と面談し、裁判当日は参与員から裁判官に経緯が説明されます。結果は本人に郵送されてきます。

医師紹介

北村 薫(きたむら かおる)

初めまして。
このたび新設の乳腺外科部長に就任いたしました北村 薫です。

乳がんの検診、診断から治療全般はもちろん、がん治療の後遺症である腕のリンパ浮腫(※婦人科がんや前立腺がんの治療後には脚にリンパ浮腫が生じることがあります)についても予防から治療までトータルケアを行います。
症例経験の豊富な内視鏡手術、乳房再建、性同一性障害に対する診療に加え、陥没乳頭の悩みなど、バストのことならなんでもお気軽にご相談ください。

出身地 東京都
略歴
1987年
佐賀医科大学卒業
1992年
Hahnemann医科大学(フィラデルフィア)留学
2000年
九州大学第二外科(当時) 講師
2003年
九州中央病院 乳腺外科部長(新設)
2007年
同 副院長
2008年
一般社団法人リンパ浮腫指導技能者養成協会 理事長
2010年
ナグモクリニック福岡院長
2016年
4月1日より現職
所属学会 日本乳癌学会 評議員(〜2017年)
日本内視鏡外科学会 評議員
日本リンパ学会 常任理事
日本リンパ浮腫学会 副理事長
アメリカ外科学会 正会員(FACS)、アメリカ内視鏡外科学会 正会員
受賞
2001年
アメリカ内視鏡外科学会 Best Award
2004年
日本内視鏡学会 会長賞(カールストルツ賞)
編著 リンパ浮腫全書(へるす出版)
リンパ浮腫診療ガイドライン(金原出版)
分著 乳癌診療ガイドライン(金原出版) 
鏡視下乳腺手術の実際(金原出版) 
患者さんのための乳がん診療ガイドライン(金原出版)
主著 乳腺外科医、参上!(悠飛社) 
たたかうおっぱい(西田書店) 
臨牀看護連載 乳腺外科医のひとりごと(へるす出版~2014年)
乳腺外科医のひとりごと(大道学館)※当院売店にて販売中